ダイヤル錠と被害妄想

「そうだろうな」彼はタバコに火をつけて、肘掛け椅子に深々と座りながら答えた。「君は見ているが観察していない。その差は明白だ。例えば、君は玄関からこの部屋に続く階段を頻繁に見ているはずだ」

「頻繁に見ているな」

「どれくらい」

「そうだな、何百回となく」

「では何段ある?」

ダイヤル錠の開錠番号が勝手に変わるという事故があった。開けようと思って番号を合わせ、抓みを回そうとしたが動かなかったらしい。割と大事なモノが入ったキャビネットの錠だったため、一頻り大騒ぎとなった。

原因は不明確なままだが、前回閉める際に何らかの要因で錠が番号変更モードに入ってしまっており、それに気付かず行われたロック操作によって開錠番号が変更されたのだろうと推測されていた。どうやら、日課のように開け閉めするキャビネットの錠を観察していなかったという理由で責められるのはジョン・H・ワトスンぐらいのようだ。

つまりロック時も必ず一定の番号に合わせるわたし、大勝利。

いや、もともとは「ロック時、毎回ランダムな番号に変更したとすると、逆に開錠できない番号のリストを少しずつ作っているようなものではないか」という被害妄想による行動なんだが。このような事故が発生しても、合わせた番号は解っているので開錠できると信じたい。

しかしこれは不運だよな。