はじめての、さいんかい
『Coffee blues』の著者・小路幸也さんのサイン会を札幌で開催|実業之日本社へ伺った。
少し事情があったので時間ぴったりではない。14時を15分ほど過ぎていただろうか。
そしてネットでの情報しか仕入れなかったので先着100名とは知らずに三省堂書店札幌店へ着いた。何処でやっているのだろうと見回しながら入り口を見やれば、先の人数制限とともに当該書籍を購入すれば整理券がもらえるとの旨が書かれた立て看板が。
- 作者: 小路幸也
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2012/01/19
- メディア: 単行本
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すぐ近くの台で平積みになっている。残りは十数冊程度であろうか。この様子では整理券は既に捌けているだろう、わたしはそう思いながら1冊を手に取りぺらぺらと捲ってみた。
面白い。読み易い上に惹かれる文だ。整理券がなかったとしても買おう、読みたい。手にした本をそのままにレジの列へ並ぶ。
後ろの誰かの子だろう、列をつくるための仕切りへだらりともたれ掛かっている。その子の身長と仕切りの高さがちょうど合っていて、わたしも年頃ならばそうして遊んだかもしれない。
「お待ちのお客さま此方へどうぞー」
レジのお兄さんお姉さんが手を振っている。2カ所が同時に空いたようだ。手近な方へと歩み寄り、本を差し出す。お兄さんがこちらを見る。
「こちら本日サイン会を行っておりまして、よろしければいかがですか?」
「え、まだ整理券あるんですか?」
「はい」
「あ、じゃあお願いします」
あばばばば。
きっともうない諦めよう、と思っていた矢先にこれである。今年の運はここで使い果たしたのではあるまいか。
「カバーお掛けしますか?」
「え、あ、はいお願いします」
正直なところ、カバーなぞどうでもよい。ちらしでも新聞紙でも包装紙でも掛けられる。それよりも整理券である。ならば不要と答えた方が早かっただろうが、その程度の回転さえこの頭はしなくなっている。
カバーの掛かった本をビニール袋へ収めてこちらへ寄越した後、さらにお兄さんは一片の紙片を手渡しながらもう片方の掌で後ろを指した。
「ではこちら整理券となります。サイン会は振り返った向こう、エスカレーターの隣で行っております。行けばすぐお解りになります」
わたしはそれを受け取ってその場から離れた。
エスカレーターに近づいてみれば、なるほど特設会場のようなモノがある。しかし予想外に権利を手に入れたわたしはすでに視界が狭くなっており、状況が把握できない。
「整理券をお持ちですか?」
そう声をかけてきた、スタッフらしき衣服のお姉さんに券を見せる。
「あちらにお並びいただいております」
彼女の先導で書架を横目に通路を戻る。1つ、2つ、3つ……数えるのを止めて暫くした頃、プラカードを掲げたお姉さんの姿が現れた。
お二人の指示に従い最後尾へ着く。 PSP を持って来てはいるものの、ここでカナル式イヤホンをつけてプレイする気にはとてもじゃないがなれない。買ったばかりの本を読むのも良いかもしれない。しかし、それはなんとなく止めておきたかった。
本の隙間をゆるりと進む。医学、ヨーロッパ史、哲学。許されるならば手に取り内容を確認したいと思わせる装丁ばかりで気になるが、列が進んだ際の手間を考えて手は伸ばさない。
その間に響き渡る男声のアナウンス。
「なお本日は写真撮影が許可されておりますので、サイン会へご参加の皆さまにおかれましては是非撮影なさってお帰りください」
あばばばば。10分ぶり本日2回目。
前を見やれば手鏡を取り出して覗き込んでいるお姉さんの姿。ああ何故わたしは素っぴん且つだらけた格好で来たのだろう。前述のページに載せてくれなかったのは何故だ。せめて部屋着のようなカットソーではなければコートを脱いだというのに。罅の入った眼鏡ではなくコンタクトレンズにくらいはしたというのに。
そんなコトを思っても仕様がない。わたしはため息だけを吐いた。
つらつらと書架の背表紙を眺める、進む、また眺める。気付けば後ろに幾人もの気配がしていた。
列には1箇所だけ角があった。前に続いて曲がる。
すると正面に特設会場が表れた。距離は5メートルほどであろうか。紅白の衝立を背にした、小路氏とスタッフらしき人影が見える。
おおお、アレが世に言うサイン会なるものか。
期待や喜びよりも緊張を強く感じた。お姉さんの言葉に従い、それまで並んでいたのとは違う、より近い列へと並び直す。これを2度繰り返す。
「本と整理券をお預かりします」
自分の番が次となると、整理券回収および書籍準備係のお姉さんがそう言った。先の方々がやっていたのと同様にそれらを差し出す。
受け取った彼女はその表面を指でなぞった。
「こちらに書いたお名前をサインに入れていただけますが」
もちろん書く。ボールペンを借り、普段以上に動かない指で綴った文字は汚かったが、わたしの名前は難しくも珍しくもないのでご理解いただけるだろうと信じる。
このあたりでわたしの意識は途切れたと云って過言ではない。
前へ進む。サインをいただく。名前を入れていただく。さらにはおまけまでいただく。写真撮影をお願いする。当然ながらカメラなど用意していないので携帯電話だ。氏の隣に移動し、撮っていただく。握手までしていただく。撮影を終えた携帯電話を受け取り、その場を後にする。
あばばばば。20分ぶり本日3回目。
ろくな言葉を発せられなかったコトに後悔する。
しかし専門家を前に素人が多少気の利いたと自分で思う程度の台詞を捻り出すよりは素直な方が良い。そう思わねばやってられない。
サインをいただくのは初めてなので非常に舞い上がっている。それはこのエントリをここまで読んだならば嫌になるほど解ったと思う。なぜ読書用にもう1冊買わなかったのかと悔やんでいる。むしろこれから読書用を買って来る勢いである。
自分のミーハーさ加減に吐き気を覚える。素敵な本と出会えた偶然に乾杯。いただいたモノに感謝。
なおこのエントリを書くにあたり、書店員の皆さまについても敬語を使おうと考えたが違和感があるので止めた。小路氏に敬語を使わないのも違和感があるので止めた。我ながら困ったものだ。